鉢雷『お返事は!』サンプル
*交換日記ネタ
*最初の場面の途中から
*実際は縦書きです。
*横文字のため本来のものと若干異なります。
(文章の量や改行など)ご了承ください。
―…
「雷蔵、実は――」
一拍の間が長く感じた。
雷蔵は立ったままだ。
「一月(ひとつき)ほど会えなくなった」
季節は晩夏初秋。
一瞬何を言われたか理解できず、
雷蔵はただ目を丸くした。
(三郎が、一月?)
「……え、ふぇ?」
やっと口から溢れたのは無意味な音。
そんな様子に三郎は眉を八の字にし、
苦笑した。
「急で悪い。そして何も言えないんだ」
耳に彼の少々擦れた声が流れ込む。
それはつまり一月いない理由が
忍務、だということ。
困ったように揺れた鬘(かつら)が
ひどく印象的だった。
三郎が特別な忍務を任せられることはよくある。
いつもならば
『はいはい、気をつけてね』
と熟年夫婦のような
阿吽の呼吸でにこやかに
――しかしほんの少しの寂しさをのせて
見送るのに。
(一月(ひとつき)も?)
初めてだった。
こんなに長い間会えなくなるのも。
夏休みだって五年生になれば
学園に残る期間の方が長い。
今年だってちょっと早めに二人で学園へ戻り、
山へ川へと遊びに行ったのだ。
それが二週間前。
早すぎる、離ればなれになるなど――
ギリリと唇を噛みしめる。
これは忍者の三禁だ。
雷蔵は急に俯く。
泣きそうだった。
そんな顔を彼に見せたくはなかった。
「泣かないで、雷蔵」
気づいた。
彼は座っていたのだ。
こんなひどい顔などあちらから丸見えで。
今度は頬が恥ずかしさで赤くなる。
「私だって寂しい、寂しいんだ」
ね、座って雷蔵。
と優しく促されれば素直に座るしかなかった。
真っ正面に見つめる彼の真意は測れない。
すると三郎はおもむろに懐へ手を伸ばし、
一冊の綴じ本を取り出した。
図書室の本かと思ったが
「だから私からの提案だ」
茶目っ気たっぷりの笑顔が見えた。
「雷蔵、交換日記をしよう」
この思ってもみない言葉に雷蔵は
本日二度目の間抜けな声を上げてしまうのであった。
…―
続きは本にて。