五年生『雲外蒼天〜零〜』サンプル
*室町忍務話、ねつ造有
*最初の2P
*実際は縦書きです。
*横文字のため本来のものと若干異なります。
(文章の量や改行など)ご了承ください。
雪がまだ降らぬ、しかし漏れる息がすでに白銀となりし頃。
乾(かん)裸(ら)肌の木々に囲まれた此処、忍術学園は寒さに負けぬ活気に満ちていた。
「っうぁ!美味そうですよ〜中在家先輩!」
「…いや、もう少し形を丸くしなければ…」
長屋廊下を歩く割烹着をきた仏頂面の男、中在家長次。
彼が両手に持つ焼きたてのボーロに反応したのは、隣を歩いていたきり丸だけでなく。
「…ぁあ、いいな〜」
「しんべヱ、こっちを終わらせてからだ、味見するのは」
「ええ!?食満先輩まだ食べられないんですか!?」
すでに八つ時。
太陽は真上から少し下ったところで、まだ爛々と輝いている。
通り過ぎた側の中庭で、何か四角いものや、他に紙切れを使った小細工を作っているのは用具委員会であった。
なるほど、各々委員会ごとに、なにやら準備をしている様子。
光を受けながら、学園の二連休の一日目が賑やかに過ぎようとしていた。
その中。学園長の庵に、二つの影。
「では、我々〈五人〉で取り戻せ、と」
「そうじゃ」
温厚な少年の声。
応対は皺をにじませた老人――学園長のものだった。
明かりをともすことなく、戸から漏れる一筋の金色を迎え入れるだけで。
やけに陰影が濃くなる。
光の当たらぬ老人の瞳に背筋に冷たく走るものがあったが、少年は狐色の髪を一時揺らしただけで、微笑みを崩さなかった。
「しかし、急ですね、びっくりしました」
柔和な目に驚きを微かに含ませた。
「急だからこそ、お前たちなんじゃ」
決して水面に波立てぬ、深海の影。
「買い被りすぎです」
少年は困ったように眉を八の字にする。
遠くでなにやら小さく揉めている音がした。
「いや、なにそんなことはない」
老人は少し汚れを含んだ歯をむき出しにし、天井を見上げた。
「なぁ、お主もそう思うじゃろぅ、〈雷蔵〉」
と、名を告げれば、今、老人の目の前にいる少年と同じ顔をした人間が落ちてきた、音もなく。
二人は同じ瞳を真っ直ぐ向ける。
「「もちろんです」」
いったいどちらがどちらか。
声音までそっくりなのだ。動作一つ一つまでも。
なるほど、彼らなりの忍務前の遊びか。
「して、他の五年はどうしておる」
ピクリと右のこめかみを老人が揺らせば
「「それぞれの忍務を遂行している頃かと」」
「ふむ」
実をいうと本当に〈急な〉忍務であった。
――成績と得手不得手によるが――通常上級生には割り当てられた長い期間の忍務が各々存在する。
「ご心配には及びません」
天井から落ちてきた雷蔵が答えた。
そのまま二人交互に言葉を続ける。
「我ら五人」
「何時いかなる時も」
「忍の志を忘れず」
「任を全うしましょう」
ポンと、二人は同時に右ひざを打ち鳴らす。
ニコリと不敵に笑う姿に、常人ならば喉を鳴らすだろう。
冷たい、水の流れを背に持つ彼らに。
「ならば良い。くれぐれも、頼んだぞ」
「「御意」」
蒼い制服のまま、二人は頭を下げたかと思うと、次には姿、否、気配すら消してしまった。
ピチャリと、水溜りも無いのに音が鳴った。
一陣の風。風は廊下を通り抜け、広い地へ、空へ放たれた。
「あ、食満せんぱ〜い」
「ん?」
急にボーロと言わなくなったしんべヱ。
「折鶴が飛んでますよ!綺麗ですね!」
指差す先には、三羽の折鶴。
雄雄しく、すばやく飛んでいく。
食満留三郎は、その鶴を見かけたものの、一度右眉を揺らし、くしゃりと鼻に皺を寄せただけで。
「……あ、ああ」
目を逸らした。
「?」
「ほら、しんべヱ早く終わらせないとボーロが逃げるぞ」
「ああ!そうだったぁ!」
留三郎は再び空を見る。すでにあの鶴たちは、点となり、遠ざかり――姿を隠してしまった。
…―
続きは本にて。